ネット小説☆女達のトラベリン・バス☆213

「まさか泣かれるとはなぁ・・・・・」

今年も帰宅組の敏広達は川崎駅へと向かう道すがらパーティーでの澄子の涙を思い出していた。

「麻理子ちゃんも言ってたけど気にする様な事では無いよなぁ」

「それを気にしてしまう人なんだろ。ある意味、澄子さんの人柄が表れてると思う」

他に話題を変える事も出来ないまま電車へと乗り込む。

「署名活動でもする?」と加奈子。

「何の?」

「だから今年、ツアーは無理でも武道館位はやって欲しいって嘆願書」

「無駄だろ。集めた所で『貴重なご意見ありがとうございます』で終わりだよ」

「それに今から年末の武道館、抑えるのは、いくら天下のYAZAWAでも不可能だろうし」

「だからって、このまま何もしないのもやりきれないじゃない!」

「・・・・まぁ確かに」

「だけど気になる事、言ってたよなぁ?」と賢治。

「何?」

「来年まで生きていられたらって・・・・・」

それを聞いて皆、黙り込んでしまう。

「裕司、その辺、何か聞いてないか?」

「検査の結果は異常無しだって寺田さんは言ってたけど・・・・」

「・・・・まさか本当は違うとか」

「ちょっと縁起でもない!」

「悪い!やっぱこの話は止めよう!」

その後、5人は、それぞれの自宅のある最寄りの駅まで無言のままであった。

梶が谷駅の改札を出る裕司と麻理子。

麻理子は会場を出てから今の今までずっと何か思い詰めた様な表情のまま一言も口を開かなかった。

まるでケンカしたカップルの様に気不味い雰囲気のまま横一列に歩いてゆく。

こうゆう空気が苦手な裕司。だが何の話題も思い付かない。

駅を出て10分近く経過していたが今の裕司には普段の倍以上に長く感じた。

やがていつも2人で立ち寄る裕司宅近くのコンビニが見えてくる。

「あ、今日もアイス食べるでしょ?」

やっと話題が浮かんだ裕司。

「・・・・・うん」

返事は返ってきたが聞いてるのか聞いてないのか、何処か上の空な麻理子の反応。

「そろそろハーゲンダッツの新しい期間限定商品が出てる頃だよねぇ」

「・・・・・うん」

「ハーゲンダッツって言えば永ちゃんと少なかれ関わりが有るのが面白いよなぁ!」

矢沢永吉がアメリカ進出を始めた頃、まだ日本にハーゲンダッツは無く本場で実際に食べてみた永ちゃんが「こんなに美味くて安いなら日本でも絶対に売れる!」と具体的な販売戦略を書いたレポートをハーゲンダッツ本社に送り、ついでに「日本での販売権を俺にくれ!」と要請。

後日ハーゲンダッツ側から丁重にお断りの手紙が届いたとゆうエピソードが有る。

「やっぱ永ちゃんだよなぁ!並のアーティストとは発想が違うってゆうか」

「・・・・・うん」

「あぁ、でも金儲けに熱心なだけだったりしてね!あはははは!」

「・・・・・うん」

「・・・・・・・」

話が続かなくなってしまう。

「・・・・・あぁ、そうだ。お腹の方は大丈夫?空いてない?」

「・・・・・うん」

「・・・・・ん、まぁ後でまた買いに来ればいいか」

「・・・・・うん」

「それじゃアイスだけでも買って帰ろう!」

この時、麻理子が足を止めた。

それに気付かず一人、歩き進む裕司。

コンビニ入口の手前でやっと隣に麻理子が居ない事に気付き慌てて周囲をキョロキョロと見回して振り返る。

「ど、どうしたの?」

足早に麻理子の方へと戻る。その麻理子は難しい表情で俯いたまま。

「麻理ちゃん?」

暫しの沈黙。

「・・・・・ねぇ裕クン」

「・・・・・何?」

「・・・・・あのね」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

何故か裕司はこの時、まさか別れ話でも切り出されるのかと不安になった。だが麻理子が次に発した言葉は思い掛け無い物であった。

「あの・・・・ライヴ・・・・・やってくれないかな!?」

「・・・・・・・・・・エェッ!!?」

余りにも唐突で尚且つ話の見えない麻理子のお願いに呆気に取られる。

「ラ、ライヴって、それ・・・・・・俺にやれって意味?」

「駄目?」

「いや、駄目も何もライヴは俺一人じゃ出来ないし・・・・・」

「あ・・・・・そっか・・・・・」

「けど、またどうして?」


つづく


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