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zoom RSS ネット小説【人権剥奪】006

<<   作成日時 : 2016/06/08 20:20   >>

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一瞬、場の空気が止まり、スタジオ内、一番奥の客席に注目が集まる。

無視する事も出来ないので司会者がインタビュアーを促す。

マイクを向けられると、歳の頃40から50代と思われる、その女性はマイクを手に取り、ゆっくりと話始めた。

シングル・マザーであった、その女性には、かつて中学生の一人息子が居た。

その息子は身体が余り丈夫では無く、それが原因で小さい頃からイジメに遭っていた。

小柄で線が細い為「オカマだ!女みたいだ!」と揶揄われ、中学生に成ると無理矢理、女子の制服を着させられたり、また思春期特有の悪戯で自尊心を傷付けられる様な事を強要されたりもしていた。

そんな酷い事をされていても女手一人で自分を育ててくれている母に心配かけたくない一心で、普段から母の前では平静を装っていた。

故に、この女性が事実を知る為には、忌まわしい事件が起こる迄の時間が必要であった。

卒業を控えた有る日、息子は虐めっ子グループに今迄以上に自尊心を傷付けられる様な行為を強要され、逃げようとした所、暴力に訴えられ、それが原因で死んでしまったのだ。

その後は言うまでもなく、いわゆる少年法の御加護の下、加害者少年達の「殺すつもりは無かった。死んでしまうなんて思わなかった」と言う供述が認められ主犯格の少年2名が少年院へ、後の数人は保護観察処分に留まる判決が下された。

そして現在、少年達は既に出所。女性は【被害者遺族の会】に所属し、各、少年院等を廻って講演活動を行っていた。

「私自身、色んな所で私が味わった悲しみを訴えつつ、収容されている少年達には一日でも早く更生して欲しいと伝えてますけど…それとは矛盾している事は百も承知ですが…やっぱり私は今でも息子を殺した少年達が憎い!!出来る事なら極刑を与えてやりたい!!…これが私の…息子を奪われた母としての偽りの無い本音です…」

目に涙を浮かべながら力説する、その姿にスタジオ内は沈黙、賛成派のタレントや観客の中には貰い泣きしている者も居た。

予期せぬ事態。完全に流れが変わった事に危機感を感じる番組プロデューサー。生放送。民放なら一旦CMという方法も出来るが某国営放送な為、それも叶わない。

「…しかしですねぇ」

その時、野々山が沈黙を破った。

「加害者少年達に極刑を与えても、貴女の息子さんが生き返る訳じゃ無い。私が思うに…」

「そんな事は解ってます!!」

「いえ、まだ話は終わっていません。私が思うに、仮に加害者に極刑を与えても、貴女がそれで本当に納得出来る物なのか?被害者遺族の皆さんが、それで本当に幸せになれるのか?私は、そうは思わない。むしろ加害者少年達が自らの罪を認めて、心の底から深く反省をし、更生して社会復帰をして、世の為、人の為に生きていく事こそが、被害者への償いになるのではないかと。それが貴女の幸せにも繋がるのではないかと。私は、こう思うんですね」

「そんな綺麗事…」

「では、とにかく加害者にも死の恐怖を味あわせてやりたいと。少年達の未来を奪って、ただただ彼等と、その家族を不幸に陥れてやりたいと。こういう事ですか?」

「………正直に申しますと私は彼等に死んで欲しい。私の大切な息子を殺しておいて、数年間、少年院で過ごしただけで、また再び元の生活に戻る事が出来る……こんな事……家族を奪われた者ならば到底納得出来る物では有りません」

「彼等を殺したい。と?」

「……いえ」

「ですが先程、死んで欲しいと」

「……極刑を望んでると言ったのです」

「同じ事では?」

此処で客席が僅かにどよめく。

「…………幾らなんでも私が加害者に直接、手を下す事なんで出来る筈ないじゃありませんか!」

「そうですねぇ。ですが貴女は加害者少年達の死を望んでいる。これは間違い無いのですよね?」

「…………」

「彼等にも親が、家族が居ます。もし仮に、貴女の、その個人的な感情を満たす為に彼等を死に追い遣る事が許されたなら、それは、つまり、彼等の家族に、今、貴女が抱いている想いをさせるという事でもあるのですよ」

「…………私が間違っていると?」

「そうでは有りません。ですが、憎しみの連鎖は不幸を繰り返すだけなんです。もしかしたら、その連鎖が、行く行くは貴女の命を奪う様な事になるかも分からない。そうならない為にも一度、落ち着いて…」

その時

「その憎しみを最初に生み出したのは加害者じゃないか!」

賛成派の男性タレントの一人が口を挟んだ。それに対し

「お前は黙ってろ!!」

思わず声を荒げる野々山。だが、この横暴な物言いが他のタレント達の感情に火を付けた。

「何だそりゃぁ!?」「てめぇ何様だっ!!」「さっきから黙って聞いてりゃ偉そうな事、ほざきやがって!!」

次々に野々山に対して罵声を浴びせる賛成派陣営。

「み、皆さん、落ち着いて!!ご静粛にお願いします!!」

荒れるスタジオ内に慌てる司会者。まるで台湾の議会の様な一触即発の空気に成る中

「皆さん、お静かに。もう少し、野々山氏のお話を伺おうじゃありませんか」と保守論客。

これにより程無く落ち着きを取り戻すスタジオ内。

「そ、それでは野々山さん、再度お話を」と司会者。

「え、いいですか?冷静に聞いて下さいね」

「お前が始めに感情的になったんだろうよ」と客の一人がツッコむ。

笑い声が上がり野々山の表情がムッとなるが、ここは流す。

「では何故その様な事になったのかと。その原因を考える事も大切なんですね。何故、貴女の息子さんが死ななければならなかったのか?同時に何故、加害者少年達が、その様な行動に出たのか?もしかしたら貴女の息子さんにも問題が有った可能性も無い訳では…」

「私の息子が悪いって言うんですか!?」

「いえ、そういう訳では…或いは加害者の方にも、そうしなければならない事情が…」

この野々山の言葉にスタジオ内は騒然とした。

「事情って何ですか?!私の息子が殺されなければならなかった事情って?!」涙声で訴える女性。

「いや、加害者にも家庭環境とか、周囲に、どの様な大人がいたのか?それら諸々が成長過程において色々な影響を与える訳で…と、とりあえず、それは置いといてですねぇ」

その時

「置いとくなよ!!」観客の男性が一人、立ち上がる。

「この人の息子さんが殺されなければならない事情って一体、何だよ?言ってみろっ!!」

今度は賛成派では無く観客が野々山に対して異議を唱えだした。

「そうだ!!」

「言えよ!!」

「最っ低!!」

これにより番組は放送事故とも言える収集の着かない事態に発展。直後には局宛てに野々山の発言に対して抗議や批判の電話やメールが殺到。

録画された映像は、その日の内に動画投稿サイト各種にアップロードされ、この時の【野々山発言】は瞬く間に広まりコメント欄は野々山に対する批判や罵詈雑言で埋め尽くされた。

やがて、この【炎上】騒動は野々山の事務所や所属政党に飛び火し、遂には国会にまで今回の騒動が取り上げられ、野々山は今回の発言を正式に謝罪。

これが影響したのか、次の選挙で野々山は落選し政界を引退。一介の弁護士に戻った。

だが、その後、野々山自身に、先の女性の様な悲劇が訪れるとは、この時、誰も想像していなかった。


つづく



目次は以下↓

http://34619546.at.webry.info/201611/article_2.html

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
死刑制度に関しては文明論的な問題もあり、欧州ではどこも停止されています(米国は拳銃携帯が許されているので例外とします)。
一方、死刑制度が存続しているのはシナ、金王朝、イランを筆頭とするイスラム国家ばかりでしょ?だから個人的には我が国も停止してもらいたいと思います。

ただし、そのことを口にして良い時と悪い時があります。また、矛盾しているようですが、少年法に守られて釈放された屑達が被害者家族に謝罪にも来ない、手紙もよこさないなら、死んで貰った方が世の中の為になるでしょうね…。
Harmonia Mundi
2016/06/11 15:49
Harmonia Mundiさん♪^^毎度です

欧米の(敢えて米を含めます)死刑廃止は、自分の勝手な解釈としてはキリスト教の影響が強いんだろうと思っております。

余談ですが、確かイスラエル(キリスト教国では有りませんが)には死刑制度が無いけどナチスの戦犯に対しては別でしたよね?

死刑制度が果たして本当に正しいのかどうかは分かりませんが、本作品は、その辺りも含め、作者の個人的見解を中心に話を進めていく予定です。

重いテーマですが一応、娯楽作品ですので(笑)今後も気楽に読んで頂けたら有難いのでヨロシクお願い致します
新堂日章
2016/06/12 17:27

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